常磐植物化学研究所

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第5回 食素材の役割のお話~ワサビ(2)~

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知ってるようで知らない
食素材の役割のお話~身近な生薬や食品添加物~


(株)常磐植物化学研究所
顧問
鳥越 泰義

- 第5回 ワサビ (2)-

 東京のワサビとして、奥多摩のワサビ田を訪ねてみた。青梅線の終点、奥多摩駅の改札口を出ると四方を山に囲まれており、青空は頭の上に少しばかり、全く異質だが都心で高層ビル群が迫る景色と似ている。
 奥多摩の西には東京都の最高峰、雲取山(2017m)がある。この連峰が秩父、飯能、そして青梅へと続いて北の山壁を作っている。この山々に降った雨は湧き水となって沢となり、谷を下って日原川へと移っていく。
 奥多摩の西には奥多摩二山といわれる三頭山(1528m)、御前山(1405m)、そして大岳山(1268m)が南の山壁を作る。これらに降った雨は奥多摩湖に集められ、小河内ダムを出て日原川と合流して多摩川の渓流となる。
 このような奥多摩の地形から見て人里近くの山へ登ると、至るところに湧き水や沢に恵まれていることが分かる。古くから山里に住む人達は野生のワサビを食事に利用していたはず。この地の言伝えではあるが、徳川幕府への献上品を栽培したワサビ田も現存している。
 改札口を出てすぐの町役場で、千島ワサビ園の千島国光氏と落ち合った。千島家は日原で6代続く旧家。軽トラックに乗せてもらい、川苔山(1364m)の近くにある千島氏のワサビ田の、最も標高の高いところを目指した。車中、奥多摩ワサビが朝日農業賞(1973年)に輝いた頃から、ワサビの栽培と研究に一生をかけた話を聞かせてもらう。日原鍾乳洞へ向かう日原街道を走ると、やがて右に川苔谷が見えた。林道に入ると最近有名になった百尋の滝を過ぎる頃から道路には鹿が落とす大きな石が次々と目に入る。日向谷を右に見て柱谷へ入るとジャリ道は行き止まりになった。ここから車を降りて千島氏の運転するモノレールに乗って谷を登って行く。鉄の横棒を握りしめて命を落とす思いの約20分が続いた。鹿よけのネットに囲まれ、湧き水を使って築き上げた地沢式ワサビ田には畝が作られ、低い所にワサビが植えられていた。14ヶ月栽培したワサビの収穫が始まった。冷たい清流で洗われたワサビの根の美しさ、茎と葉の力強さは印象に残った。
 水量も少なく、気温も低い自然条件を克服して育つ、固く締まった香り高い奥多摩のワサビの貴さが身にしみて理解できた。


掲載:
食品化学新聞 2009年(平成21年)10月29日