常磐植物化学研究所

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第6回 食素材の役割のお話~ワサビ(3)~

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知ってるようで知らない
食素材の役割のお話~身近な生薬や食品添加物~


(株)常磐植物化学研究所
顧問
鳥越 泰義

- 第6回 ワサビ (3)-

 今回は、静岡のわさび田を眺めてみる。静岡県にはワサビ栽培の組合が8つあり、これを分かりやすく2つに分けてみる。1つは富士山系といえる。安倍川、富士宮、御殿場、そして清水の4組合。残りは伊豆の天城山脈の周辺、すなわち天城湯ヶ島、中伊豆、南伊豆、土肥の各組合である。伊豆半島で生産されるワサビは静岡県産ワサビの約7割を占めている。以上8つの組合をまとめているのが天城湯ヶ島にある静岡県ワサビ組合会である。そこで、会長の浅田正孝氏のワサビ田を訪ねてみた。
 修善寺から「河津桜まつり」で知られる河津行きのバスに乗ること30分。伊豆半島を南北に分ける天城峠の北麓に湯ヶ島がある。この近くを流れる本谷川には天城を代表する滝、「浄蓮の滝」がある。天城山脈には天城山(1325m)、万次郎岳(1308m)、万三郎岳(1405m)などがあり、これらの山々に降る雨の量は年間3000mmといわれている。大量の雨水は清浄な湧き水となって山麓の岩盤から吹き出てくる。湧き水の温度は1年中13度程度、ワサビの栽培には最適となっている。湯ヶ島天城会館を過ぎ、発電所入り口でバスを降りる。本谷川を渡ると左の発電所が目に入る。昭和5年(1930年)にこの発電所が完成したころ、浅田正孝氏の先祖は本谷川上流の岩盤から大量の湧き水が出るのを知った。豊富で清浄、吹き出る湧き水を利用してのワサビ栽培は80年近くになる。畳式のワサビ田が棚田のように何百粉米も続いている。太いパイプで引かれる湧き水は、何段ものワサビ田となって浅田氏宅を囲んでいた。
 終わりに、天城湯ヶ島でのワサビ栽培にまつわる話を紹介する。天城では古くからシイタケが盛んに栽培されていた。他方、安倍川上流の有東木では家康へ献上するワサビが門外不出で栽培されていた。この頃、韮山の代官が天城山の山守をしていた板垣勧四郎に、有東木の村人にシイタケの栽培法を教えるよう命じた。有東木からさらに安倍川の源流近くまで入ると秘境の湯、「梅ヶ原温泉」がある。勧四郎が湯ヶ島へ帰る時、有東木の村人はワサビの苗をお礼に渡した。苗は浄蓮の滝近くの岩尾川の上流に植えられ、天城湯ヶ島では勧四郎の子孫が今でもワサビを栽培している。


掲載:
食品化学新聞 2009年(平成21年)11月19日