低カロリー天然甘味料成分を合成する酵素遺伝子を発見
-甘味効果が砂糖の150倍の「グリチルリチン」大量生産へ第1歩-

本研究成果ポイント
 ●CYP88D6遺伝子を導入した酵母でグリチルリチン生合成中間体の蓄積に成功
 ●野生のカンゾウ乱獲による有用植物の絶滅の危機防止にも貢献
 ●ほかの植物や酵母で天然の甘味成分、医薬品原料の工業生産が可能に

 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)、公立大学法人横浜市立大学(本多常高理事長)、株式会社常磐植物化学研究所(立﨑隆社長)および国立大学法人千葉大学(齋藤康学長)は、国立大学法人京都大学(尾池和夫総長)、日本大学(酒井健夫総長)らと共同で、天然の甘味成分である「グリチルリチン」生合成の鍵となる酵素遺伝子を初めて明らかにしました。これは、理研植物科学研究センター(篠崎一雄センター長)多様性代謝研究チームの村中俊哉客員主管研究員(本務:横浜市立大学木原生物学研究所教授)、關光客員研究員(本務:同特任准教授)と同センター代謝機能研究グループ(斉藤和季グループディレクター、本務:千葉大学大学院薬学研究院教授)大山清リサーチアソシエイト、株式会社常磐植物化学研究所の須藤浩研究員ならびに澤井学研究員(共に千葉大学大学院薬学研究院外部機関共同研究員)らの共同研究による成果です。
 マメ科植物の甘草(カンゾウ)地下部(肥大根および地下茎)から抽出されるグリチルリチンは、天然の甘味料、医薬品として世界的に大きな需要があります。しかし、栽培されたカンゾウではグリチルリチンの蓄積量が低く、収穫までに数年を要することなどから、供給のほとんどが野生のカンゾウの採取に依存しているのが現状で、希少な有用植物の1つに数えられています。主な産地である中国では、カンゾウの輸出規制も始まっています。
 研究チームは、「オールジャパン」の研究体制を組織し、グリチルリチン生合成の鍵となる酵素遺伝子「CYP88D6」の同定に成功しました。さらに、この遺伝子産物が、植物二次代謝産物の生合成において重要な、チトクロームP450と呼ばれる一群の酸化酵素の1つであることを解明しました。この遺伝子配列情報を基に、栽培に適したカンゾウ植物の品種改良や、栽培条件の最適化研究が可能となり、ひいては野生カンゾウの乱穫防止、生態系の保全にも役立つと考えられます。さらに将来的には、ほかの植物や酵母などにこの遺伝子を導入することで、天然甘味成分の工業生産が期待できます。
 本研究成果は、理研植物科学研究センターと横浜市立大学木原生物学研究所の連携研究による初めての成果であり、成果の一部は(株)常磐植物化学研究所および千葉大学らが受託する新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の”植物の物質生産プロセス制御基盤技術開発”プロジェクトの中で行われました。
研究成果は、米国科学アカデミー紀要『Proceedings of the National Academy of Sciences』9月8日の週にオンライン掲載されます。
図1.カンゾウ植物
写真提供:須藤浩博士
(株式会社常磐植物化学研究所)

図2.カンゾウ
生薬として用いられる甘草根ときざみ
写真提供:豊岡公徳研究員
(理研植物科学研究センター機能開発研究グループ)