エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス(EFE)の創薬開発を推進
天然物医薬品の開発におけるブレイクスルー
エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスの創薬開発を推進
-天然物医薬品の承認申請ガイドライン整備策定の契機に-
  • ●安全性が高く、高齢者、高血圧・心疾患の患者への投与が可能な、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス(EFE)の製造法を確立
  • ●EFEは、鎮痛作用、抗インフルエンザ作用、抗がん作用を元の麻黄エキスと同程度に有する。関節痛患者に向けた、医薬品化を目指す。
 国立医薬品食品衛生研究所北里大学東洋医学総合研究所および株式会社常磐植物化学研究所は、国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)創薬基盤推進研究事業「医薬品等の品質・安全性確保のための評価法の戦略的開発」内のプロジェクトである『エフェドリンアルカロイド除去麻(マ)黄(オウ)エキス(EFE)共同開発』を2014年4月より推進しており、EFEの成分組成の評価、薬理作用の性能評価、量産化のための製造法を確立している。
 同プロジェクトは、高齢者や麻黄感受性の患者も使用できる安全性の高い天然物エキス製剤を開発し、新規な知見に基づいた天然物エキス製剤の第一号として医薬品化を目指すことで国が掲げる「ライフイノベーションにおける”安全で有効性の高い治療法の実現及び高齢者の生活の質の向上”」に貢献する画期的な取組みである。加えて、新規な天然物医薬品の承認申請のガイドライン制定に資するものであり、天然物エキスについて優れた製造技術や研究基盤を持つにも関わらず、国内で新規医薬品として実用化できない状況を打開するための大きな一歩となる。

 麻黄は有効性が高く、多くの漢方処方の構成生薬となっているが、主成分のエフェドリンアルカロイドに由来する動悸、血圧上昇や不眠等の副作用のため、狭心症、心筋梗塞、高血圧患者には禁忌であり、高齢者や麻黄に対して感受性のある患者には使用上注意を要する。麻黄の薬理作用および副作用はエフェドリンアルカロイドに由来すると考えられてきたが、最近、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス(EFE)に鎮痛作用等で麻黄と同等の薬理活性があることが確認された。
 日本では、1976年より漢方エキス製剤が健康保険制度に導入され、医薬品として承認されており、その品質の高さは世界で広く認められている。しかし、現在の医薬品製造販売承認制度は基本的に化学医薬品の承認を想定したものであり、多成分系である天然物医薬品の特性を十分に勘案した承認申請ガイドラインは整備されていない。このため、国内で、新規な天然物エキス製剤の承認申請は困難であり、漢方製剤においても、適応症の拡大や新規な配合への道筋は明確ではない。EFEの医薬品化への試みは、新規な天然物エキス製剤の製造・販売への道筋を拓くもので市場性、事業性、社会経済へ大きなインパクトを与えるものと期待される。

 EFEを安全性の高いエキス製剤として医薬品化するこの産官学共同プロジェクトでは、(1)EFEの成分組成の評価、(2)EFEの薬理作用の性能評価、(3)EFEの製造方法のスケールアップに関する検討を完了している。また、既に「エフェドリン除去麻黄エキスと、その製法及び用途」の特許出願(PCT出願 PCT/JP2014/80605)を行った他、2015年5月にNHKワールドから取材を受け、「NHKワールド Medical Frontiers 第3回 漢方」として国際放送された。また、EFEの製造方法と成分に関する研究、EFEの薬理作用に関する研究の論文2報がJ. Nat. Med.に受理され、近く掲載される予定である。さらに日本薬学会第136年会においてEFEの創薬にむけた取り組みに関するシンポジウムを開催する(日時:2016年3月29日(火)午前9時から午前11時、会場:パシフィコ横浜・会議センター303)。本シンポジウムのオーガナイザーである合田幸広国立医薬品食品衛生研究所薬品部長は「このシンポジウムでEFEの国内での医薬品化の可能性と、日本の天然物医薬品の承認申請ガイドラインの整備について議論を深め、承認申請ガイドライン策定の契機としたい」と述べている。
 さらに、本研究に並行して北里大学のAll Kitasato Project Study (AKPS) 共同研究**による「EFEのヒトでの安全性及び有効性を検証するための医師主導型臨床研究」の実施準備が進められている。AKPS共同研究では、北里大学東洋医学総合研究所、薬学部、北里大学病院臨床試験センターが協力して、臨床研究を推進する。平成28年6月までに、「健常人を対象としたEFEの安全性確認試験」を、麻黄エキスを比較対照薬とし、二重盲検、ランダム化、クロスオーバー試験として、北里大学病院臨床試験センターの入院管理のもとに実施する予定である。これまで、漢方薬や生薬エキスについて、このようなヒトでの安全性試験の報告はないことから、初めての臨床研究となる。また、平成29年度には、関節痛患者を対象とした有効性試験の実施を計画している。本臨床研究で投与される試験薬(EFE及び麻黄エキス)の製造及び品質管理は、産官学共同プロジェクトの協力のもとに株式会社常磐植物化学研究所が担当する。
 今後、産官学共同プロジェクト及びAKPS共同研究によって、EFEの安全性と有効性が確認された後には、EFE製剤及びEFE含有漢方エキス製剤の医薬品化を実現させる。

日本医療研究開発機構(AMED)は医療分野の研究開発における基礎から実用化までの一貫した研究開発の推進・成果の円滑な実用化および医療分野の研究開発のための環境の整備を総合的かつ効果的に行うため、医療分野の研究開発およびその環境の整備の実施や助成等を行う公的機関。

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All Kitasato Project Study (AKPS) 共同研究は、北里学園創立30周年記念事業の一環として、平成4年度に北里学園教育研究振興基金が設定され、この果実をもって、建学の理念の高揚のため、北里学園ならびに北里研究所の範囲で行われる生命科学分野の学際的総合的共同研究(以下「AKPS」という。)に対し、必要な助成を行う制度である。平成20年に両法人が統合して学校法人北里研究所として活動を開始してからも、オール北里による共同研究に対する助成を続けている。

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国立医薬品食品衛生研究所は、明治7年(1874年)に医薬品試験機関としての官営の東京司薬場として発足した、わが国で最も古い国立試験研究機関であり、医薬品、食品をはじめ国民生活に密接に関連する化学物質の品質、有効性ならびに安全性の評価に関する試験・研究や調査を行っている。

北里大学東洋医学総合研究所は、昭和47年(1972年)に日本で最初の漢方医学の総合的な研究機関として設立された。漢方医学関係の診療や研究に注力し、漢方理論に基づいた診療を行うとともに、最新の科学技術、設備を駆使して免疫学、薬理学、生化学の統合的視野にたった漢方薬の科学的解明と漢方理論を応用した新しい医薬品関発を目指している。

常磐植物化学研究所は、昭和24年(1949年)、元厚生省国立衛生試験所所長 松尾仁博士により日本初の植物化学企業として設立された。ルチン、グリチルリチン、センノサイド、ビルベリーエキス、イチョウ葉エキス等の、医薬品・健康食品・食品・化粧品に用いられる原料の製造販売を行っている。産官学共同プロジェクトをはじめとする様々な植物化学研究の成果は多くの学術雑誌で掲載されている。